はじめに
社会人にもなるとなかなか旅に出る機会もなく、日曜しか休みの無い生活では
ロングのツーリングも無理な話。そんな僕にとっては日帰りのツーリングとい
えども、もはや立派な旅である。初めに,そんな僕の旅に馳せる思いを私小説
風に綴ってみておこう。
土曜日、仕事が終わるのを待って、バンバンに荷物を積めるだけ積んで、仕事
もスケジュールも恋愛関係のゴタゴタも、みんなまとめてゴミ箱行き。
今、僕は自由だ。僕のバンバンもアイドリングしながら喜んでいる。
部屋の電気を消し、カギを掛け家をそっと出る。路地を曲がる。午前二時。
道には誰もいない。街灯がまだ灯っている。遠くからサイレンの音が聞こえる
。風にはまだ昨日の雨の匂いが残っている。
雨雲はまだ西の空に浮かんで、泣きそうな顔。でも、今日は晴れることを僕は
知っている。理由は無い。天気予報を見たわけでもない。でも今日は晴れる。
心と体が細胞からざわついてそう教えてくれる。
今日もきっと暑い日になるだろう。
さて、エンジンは暖まったかな?
チョークを戻す。ミラーを合わす。ヘルメットのリングを締める。使い古した
革グローブに手を通す感触を味わう。ガソリンは満タンで、地図は無い。カレ
ンダーもない。目的地もない。走るべき道なら目の前にいくらでもある。
サイドスタンドを蹴り上げ、そのままの足でギヤを一速に蹴り込んで、クラッ
チを握ったまま我が家を少し見上げて、前を向く。そろそろと出て、角を曲が
り、大通りで一度吹かす。アイドリングは1500。真っ直ぐ駆け抜けて、国
道。気を許すといろいろ考えちゃうから、アクセルを吹かしてそんなものは置
いてきぼり。さて。さすらおう。道はどこまでも続くよ。